「有元利夫 絵を描く楽しさ」

2018年1月3日

表題は、スタッフが「学生に読ませよう」とアトリエに買ってきた本です。昭和50年代、「画壇のシンデレラボーイ」と呼ばれ、一世を風靡しながらも、若くしてガンで亡くなった画家「有元利夫」のエッセーと作品図版を中心に、妻であり現在画家として活躍中の有元容子、「芸術新潮」元編集長で故人の山崎省三の文章で、有元利夫の作品制作に関わる日々が綴られています。
有元が亡くなったのは昭和60年の2月で、僕が高校3年生のときでした。学校の寮に入っていたこともあり(というのは言い訳だろうな~)、現在進行形で個展や紹介記事を触れる機会はありませんでした。大学に進学してから昭和61年に刊行された画文集「もうひとつの空-日記と素描-」を、友人から見せてもらったのが出会いだったような記憶があります。そのときは、生意気盛りな年頃で「やっぱりデザイン出身の人のは絵っぽくない」なんて、洋画クラスの友人達と偉そうに批判していた覚えがあります。
その後、様々なメディアや画廊で紹介される作品に接するうちに、さすがに「いい絵描きだな」と気付きましたが、その生涯や制作に対する姿勢など詳しくは知りませんでした。なので、この本を読んで初めて知ったこともたくさんありました。心に残ったことをいくつか挙げてみると、
1・浪人中に「今やってる石膏デッサンは、美術の本質とはかけ離れている」と気がついたこと
2・同時期、コンセプチュアルアートに傾倒し、入学前にすでに作品作りをしていたこと
3・大学入学後は自分の専攻以外の実習に我が物顔で参加したこと。(美術学部だけでなく、音楽学部の実習にも出席していたことにはびっくりしました)
4・本当に「作りたがりやさん」だったこと。(ジャコメッティ展に感動したと語る友人に「僕なら展覧会の帰りに針金を買ってきて、すぐにまねして作っているだろう」と言ったそうです)
などなど・・・・
他にもいろいろありましたが、特に学生達に読み取ってほしいのは、2と3に象徴される「バイタリティー」と「コミュニケーション能力」です。多分、有元はごくごく自然に、自分のやりたいことをやっただけなのでしょう。でも、僕も含めて『普通(!?)』の人は、どこか自分にリミッターをかけて「出来ない理由」を探してしまうものです。「芸大」をしゃぶり尽くすように味わった彼に、羨望を覚えました。
有元が死んだ歳(享年38)をすでに僕は越えています。最近になってようやく「人生は短いのだから、やるべきこと(やりたいことは)その日のうちにやらなければ後悔する」という気持ちが少し出てきていました。そんな気持ちの変化にちょうど沁み入るように入ってきました。これから美術を志す高校生や浪人生、そして美大生に読んでほしい本です。
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「有元利夫 絵を描く楽しさ」
著者 有元利夫 有元容子 山崎省三
発行所 株式会社新潮社
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